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新潟地方裁判所 昭和50年(ワ)468号 判決 1978年6月15日

原告 櫛信明

右訴訟代理人弁護士 岩渕信一

同 高山道雄

右訴訟復代理人弁護士 勝見洋人

被告 新潟市

右代表者市長 川上喜八郎

右指定代理人 脇坂一昭

<ほか二名>

被告 株式会社 近藤組

右代表者代表取締役 近藤秀吉

右被告両名訴訟代理人弁護士 涌井鶴太郎

主文

一、被告両名は原告に対し連帯して金三、三〇〇万円と内金五九一万五、八三四円については昭和五〇年一二月七日より、内金一一六万五、三九四円については昭和五一年一月一日より、内金二、二九一万八、七七二円については昭和五一年四月二日よりそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は被告両名の負担とする。

四、この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告両名は原告に対し、連帯して金三、三〇〇万円と内金三、〇〇〇万円について訴状送達の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告両名の連帯負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故発生

原告は昭和四九年七月一一日午後九時三〇分頃、自動二輪車に乗って新潟市艀川岸町地内の大川鉄工所前の舗装されている市道を進行していたところ、右市道には照明もなく暗いところであるうえ、同所に長径三・九メートル、短径一・二メートル、深さ一五センチメートルの陥没箇所があったため、自動二輪車を同箇所に乗入れ、原告は同車諸共一〇数メートル投げ出され意識を失った。

この結果原告は中心性頸髄損傷、頸部挫傷、頭部、胸部両側肘関節打撲等の傷害を受け、訴外長谷川病院に事故直後から同年一〇月一〇日まで入院し、退院後翌昭和五〇年五月九日まで同病院に通院し、その後同月二三日から六月一〇日まで同石川整形外科に入院し、さらに同年一一月一四日まで同新潟大学医学部附属病院整形外科に通院し治療を受けたが、現在も四肢の知覚運動麻痺の後遺障害があり、日常の動作にも支障を生じ、労災保険の障害等級三級、将来の労働能力は零と認定され、そのため、昭和五一年九月三〇日、原告が従前勤務していた訴外北陸瓦斯株式会社より解雇された。

2  被告らの責任

(一) 被告新潟市の責任

被告新潟市は、市道を車両が安全に走行できる状態に維持、管理する義務があるところ、自己の管理する前記市道上に前記陥没箇所が存在したため、これを原因として、前記事故が発生したもので、右陥没箇所が国家賠償法第二条一項の営造物の瑕疵に該当すること明らかである。

(二) 被告近藤組の責任

被告近藤組は同新潟市の下水道管理課より下水管工事を請負い、同人の責任と計算のもとに訴外高春組に同工事を下請施行させた。即ち被告近藤組は被告新潟市に対し本件工事を完成して引渡す義務を負い、本件工事の施行によって第三者に損害を与えた場合は、被告近藤組がその責任を負担しなければならないところ、右高春組は、事故当日同工事のため前記道路の掘削工事をなしたが、工事後の埋戻しおよび舗装工事を完全になさなかったのに、被告近藤組は、請負契約上の責任を果たさず、現場の監督は勿論、工事着工届も、完工届さえも受理しないまま、漫然としてこれを放置した過失により、右道路に前記陥没を生ぜしめ、公共の用に供すべき道路に危険を発生せしめたのであるから、民法七〇九条により損害賠償をなすべき義務がある。

3  損害

(一) 逸失利益

(1) 昭和五〇年度の逸失利益 金一一六五万五、〇三九四円

原告は、昭和五〇年度中に金三〇三万〇一九三円の収入を得べかりしところ、同年中労災休業補償給付金一三九万五、二〇七円の支給金を受け、被告近藤組から休業補償として合計金四六万九、五九二円の支払いを受けた。

(2) 昭和五一年一月より四月までの逸失利益 金一〇一万〇、〇六四円

昭和五一年以降も金三〇三万〇、一九三円の年間収入を得るはずであり、その一二分の四

(3) 昭和五一年五月以降の逸失利益 金五、三三九万二、〇〇〇円

年間収入 金三〇三万〇、一九三円

就労可能年数 二九(三八才)

ホフマン係数 一七・六二

3,030,193×17.62=53,392,000

(二) 雑費 金五万五、五〇〇円

左記入院期間一一一日につき、一日あたり金五〇〇円

(入院期間)

長谷川病院に昭和四九年七月一一日から同年一〇月一〇日までの九二日と石川整形外科に昭和五〇年五月二三日から同年六月一〇日までの一九日の合計一一一日

(三) 慰藉料 金九〇〇万円

原告は事故当時三七才の健康な男子で、訴外北陸瓦斯株式会社(以下訴外会社と略称す)に勤務し、妻(三六才)と二人の小学生の子供があり、人生における充実期に本件事故による挫折感を味わい、後遺障害三級に該当する重傷を受け、将来の労働能力は零と認定されその障害のため日常の動作にも重大な支障を生じ、腹部等の圧迫感、性的障害に悩まされているうえ、将来働くこともできず精神的苦労も絶大であり、前記の金員を得てもなお経済的不安がつきまとうものである。

(四) 原告が本件事故により受領した金額

原告は、昭和五一年三月五日障害特別支給金一〇〇万円および昭和五一年度、同五二年度の障害年金各一二四万四、三五五円の支給を受けた。合計金額金三四八万八、七一〇円

(五) 以上の結果、損害額の総計と内金請求を左記の通り主張する。

逸失利益 金五、五五六万七、四五八円

雑費 金五万五、五〇〇円

慰藉料 金九〇〇万円

右合計金六、四六二万二、九五八円から前記(四)記載の合計金額を控除した金六、一一三万四、二四八円の内金三、〇〇〇万円および弁護料金三〇〇万円を請求する。

4  よって、原告は被告両名に対し連帯して金三、三〇〇万円と右金員中金三、〇〇〇万円については訴状送達の翌日から民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1記載の事実のうち、原告が本件事故により傷害を受け、入院したことおよび原告主張の日時、場所に道路陥没箇所が存在したことは認めるがその余は不知。

2  同2記載の事実は争う。

(一) 本件工事は本工事前の簡易舗装工事であり、工事上に瑕疵はなく、且つ道路陥没は路面より約五センチメートル程度沈下した程度で、通常の注意を以て運転する限り事故が発生するような状態ではなかった。

(二) 被告近藤組は同新潟市の承諾を得て訴外高春組と一括下請負契約を結び、右高春組が本件工事を施行したもので被告近藤組に不法行為責任はない。

3  同3記載の事実は争う。

三  被告らの主張

1  被告らは原告に対し

(一) 昭和五〇年九月分までの原告逸失利益は原告の請求額をそのまま訴外会社を通じ原告に支払った。

(二) 看護料については、昭和四九年七月一一日から昭和五〇年九月三〇日までの分として、合計金三六万一、六六六円を支払い、原告当初主張の二二万二、〇〇〇円分以上の過払分金一三万九、六六六円を他の損害金に充当した。

(三) 雑費を支払った。

2(一)  逸失利益の算定の基準は事故当時の平均月収額によるべきである。

(二) 原告は昭和五三年以降も毎年金一二四万四、三五五円の障害年金の支給を受けるものであるから右の金額は得べかりし利益の算定にあたっては考慮しなければならない。

3  本件道路陥没は仮舗装のところへ、たまたま前日来の雨が激しく、且つ交通量も多かったためできたものであり、通常の予測を越えた状態が発生した結果であり、被告らの作為、不作為と本件事故発生との間には相当因果関係を欠くものである。

4  本件事故は、原告が制限速度毎時四〇キロを越える時速六〇キロ以上七〇キロ位の速度で前方注視を怠ったまま進行した過失により発生したものであるから、仮りに被告らに責任があるとすれば、被告らは、原告の右過失に対し相殺を求める。

四  被告らの主張に対する認否

抗弁1記載の事実のうち(一)については昭和五〇年度の九月までの逸失利益の内金四六万九、五九二円を受領したことは認めるが、その余の逸失利益の受領は否認。

(三)は否認。

2の事実は争う。障害年金については、既に支給を受けた分は損害額から控除するが、将来支給される年金を控除してはならないものである。

3、4記載の事実は否認。

第三証拠《省略》

理由

第一、事故発生

請求原因1記載のうち原告が本件事故により傷害を受け入院したことおよび同記載の日時、場所に陥没箇所が存在したことは当事者間に争いがなく、その余の各事実は、《証拠省略》より認められる。右認定を覆すに足る証拠はない。

第二、被告らの責任

一、被告新潟市の責任

前記認定によれば本件道路が新潟市の管理する市道上に長径三・九メートル、短径一・二メートル、深さ一五センチメートルの陥没が存在し、《証拠省略》によると、右陥没箇所には、自動二輪車等の運転者らが容易に認められる赤色灯や防護柵等これの危険を知らしめる設備等は一切されておらず、また本件事故が発生した夜、他にも本件事故現場で同種類型の事故が発生したことが認められることを考慮すると、通常の注意を以て運転する限り事故が発生しない状態であるとは到底云えないところであり、本件道路が通常有すべき安全性を欠いていたものと認めざるを得ず、そうすると、本件事故は右灯火等の設備を怠った被告市の市道管理上の瑕疵および後記認定の被告近藤組の道路工事上の業務上の過失に基づくものといわねばならないので、被告市は、原告の蒙った損害につき国家賠償法二条に基づく賠償責任を免れえない。

二、被告近藤組の責任

1  《証拠省略》を総合すると、本件事故原因の道路の陥没は、被告会社の下請である訴外高春組が下水管埋設工事のため道路掘削工事をなし、その工事後埋戻しおよび仮舗装工事をなしたが、自然転圧の少ないうちに埋戻した土砂に降雨による水分を含んだところへ通行車両の圧力によって生じたものであり、右工事のような場合若干の凸凹はふだんでもできるところ、工事中から雨が降っており工事終了後かなりの降雨があることは予想でき、車両の通行量の程度も予想しえたのであり、且つ本件工事が仮復旧工事で簡易舗装であったのであるから、降雨や通行車両のため車両の通行に危険を及ぼす程度の陥没が生じうることは充分予見しえたのであるから、それの危険に対しての措置をとるべきであったのに、何らの措置もとらずに放置していたことが認められる。右認定を覆すに足る証拠はない。

してみると、訴外高春組はそれらに対応しうるだけの工事をするか、通行車両に危険を知らせる処置をとるべきであったところ、そのいずれもなさず、漫然と工事を完了した点に過失があると認めるのが相当である。

2  《証拠省略》によると、被告近藤組は同新潟市の下水道管理課より前記下水管埋設工事を請負い、同工事を前記高春組に下請負させ、右高春組が直接同工事を施行したが、被告近藤組は同新潟市に対し工事によって第三者に被害を与えた場合にその責任を負うことを約束し、訴外新潟中央警察署に道路使用許可申請書を提出し、同署より工事施行から終了後の原状回復に至るまでの工事に関する種々の条件を付されて許可を受けていた事実が認められる。右認定を左右するに足る証拠はない。

右事実によれば、被告近藤組は当然に右高春組の工事を監督し、本件工事を完了すべき義務があり、且つ被告近藤組と高春組の関係は注文者と請負人の関係ではなく、使用者と被用者に類する関係であったと認めるのが相当であるから、被告近藤組は不法行為者として本件事故によって生じた損害を被告市と連帯して賠償する義務がある。

もっとも《証拠省略》によると、本件下請負について、被告市の承諾を受けていたこと、被告市の担当者が直接訴外高春組に対し、工事完成時期等について、直接指示したことが認められるけれども、右の事情だけでは、被告近藤組について責任なしと認めることはできない。

第三、損害

一、逸失利益

1  昭和五〇年度の逸失利益

《証拠省略》によると、原告の昭和五〇年度の得べかりし年間収入が金三〇三万〇、一九三円と認められるところ、右金額が相当程度の蓋然性を有することは、《証拠省略》によって認められる労災休業補償受給内訳と《証拠省略》によって認められる原告の被告近藤組に請求していた昭和五〇年度の各月の得べかりし収入と前記休業補償との差額金額及び《証拠省略》から認められる。

なお、被告らは事故当時の平均月収額を基準にすべきと主張するが、給与所得者の逸失給与の算定につき、事故後口頭弁論終結時までにベースアップがあったときは、新しい給与体系を基準とすることは許されるというべきであるから被告らの右の主張は採用することはできない。

被告らは同年九月までの原告の逸失利益を弁済したと主張するが、《証拠省略》より同月分までの内、原告の認める金四六万九、五九二円を弁済した事実は認められるが、それ以上支払った事実を認める証拠はない。

従って、右金員金三〇三万〇、一九三円より、原告の認める労災休業補償給付金一三九万五、二〇七円および被告近藤組からの受領額金四六万九、五九二円を控除した、金一一六万五、三九四円を昭和五〇年度の逸失利益として認めることができる。

2  昭和五一年一月より四月までの逸失利益及び同年五月以降の逸失利益

《証拠省略》より原告は昭和一三年三月一〇日生れであることが、《証拠省略》より原告が勤めていた訴外北陸瓦斯株式会社の男子の停年は満五六才に達した日の属する月の末日で、停年後一年間は嘱託として再雇用されることが認められる。以上の事実から原告は昭和五一年四月一日現在、満三八才で本件事故がなければ、満五七才になる昭和七〇年三月末日まで約一九年間を前記会社に勤務し、年間金三〇三万〇、一九三円の収入を得、同会社退職後満六七才になるまでの一〇年間再就職によって働き、前記年間収入の約半分の金一五二万円の年間収入は控え目に見積っても得ていたと考えられる。右逸失利益を昭和五一年四月一日受領するものとして年五分の中間利息をホフマン式計算法で控除して計算すると金四、七三六万一、三一九円となる。

なお、被告らは、原告は毎年金一二四万四、三五五円の障害年金を受領するものであるから、毎年の得べかりし年間収入より控除すべき旨主張するが、労働者災害補償保険法に基づき支給される障害年金は現実に受領した金銭以外控除の対象とならない(最高判昭和四六年一二月二日、昭和五二年五月二七日付)と考えるべきであって、右主張は採用することができない。

二、雑費

《証拠省略》によれば、原告は合計一一一日間入院していた事実が認められる。入院一日につき雑費五〇〇円は相当であるから合計金五万五、五〇〇円を認めることができる。

なお被告らは入院雑費を支払ったと主張するが、入院雑費として支払いがあった事実を認められる証拠はない。

三、慰藉料

前記認定の原告の蒙った傷害の程度、状態と《証拠省略》を総合すると、請求原因3の(三)記載の各事実が認められ、これに対する慰藉料は金六〇〇万円を相当とする。

四、被告らの主張する看護料の過払分金一三万九、六六六円の存在することは原告の明らかに争わないところであるから、これを雑費、慰藉料に充当する。

原告は障害特別支給金、昭和五一年度、同五二年度の障害年金の合計金三四八万八、七一〇円の受領を自認しているところ、これを昭和五一年以降の逸失利益から控除する。

以上の結果、原告の損害金は金五、〇九五万三、八三七円となる。

1,165,394+(47,361,319-3,488,710)+(55,500+6,000,000-139,666)=50,953,837

第四、不可抗力について

前記認定の如く本件陥没が当日降った雨と本件事故現場付近市道の交通量の多さにより出来、且つ本件工事が仮復旧工事であったが、右の降雨や交通量が本件陥没を生ぜしめる予見不可能な異常降雨や交通量であったことも肯認するに足る証拠はないので、この点についての被告らの主張は採用しない。

第五、被告の過失

《証拠省略》を総合すると、本件道路の制限速度は毎時六〇キロで、事故現場付近に照明灯などなく、雨あがりのため道路が濡れていて本件陥没箇所を他から見分けることは困難であり、原告はそこを時速四五キロ位で走っていたことおよび原告以外にも本件陥没箇所に自動二輪車を乗り入れ転倒した者が二、三人いた事実が認められる。

右事実によれば、制限速度内である時速四五キロ前後で公道上を走る自動二輪車の運転者に、自車の前照灯が前方を照らしているとはいえ、危険を示すなんらの設備も設置されていない本件市道上にある本件陥没箇所を発見しえなかったことに対して運転者に前方注視を怠った不注意があったとは認めがたいので、この点についての被告らの主張もまた採用しない。

第六、原告の請求金額および弁護料

以上認定の如く原告の損害金は金五、〇九五万三、八三七円と認められるところ、原告はその内金三、〇〇〇万円と弁護料三〇〇万円を請求する。

そこで原告の弁護料を検討すると、後記認容額、事案の内容その他諸般の事情を考慮して、金三〇〇万円を本件事故と相当因果関係のある損害として被告に負担せしめるのを妥当とする。

なお遅延損害金は、雑費、慰藉料の計金五九一万五、八三四円については訴状送達の翌日であること本件記録に照らし明らかな昭和五〇年一二月七日より、昭和五〇年度の逸失利益金一一六万五、三九四円については昭和五一年一月一日より、昭和五一年一月以降の逸失利益金四、三八七万二、六〇九円については昭和五一年四月二日より発生すると認められる。

第七、結論

以上の事実によれば、原告の本訴請求は右損害賠償金三、三〇〇万円と、右三、三〇〇万円の内金五九一万五、八三四円については昭和五〇年一二月七日より、内金一一六万五、三九四円については昭和五一年一月一日より、内金二、二九一万八、七七二円については昭和五一年四月二日より支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条一項但書を、仮執行の宣言につき同法第一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山中紀行)

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